後味の悪さも味わいのうち
「断髪流行」（横溝正史）
（「横溝正史ミステリ
短編コレクション①」）柏書房
「断髪流行」（横溝正史）
（「恐ろしき四月馬鹿」）角川文庫
信吉は国元の兄に内緒で
｢延原｣という偽名を使って
一軒家を借り受け、
恋人･さち子と同棲している。
ある日、刑事が訪問し、
｢延原｣なる男について
調べに来たが、
さち子は口から出任せを
言ってしまう。
ところがその刑事の正体は…。
刑事は偽物であり、
結局は友人の悪戯だったのです。
事件は起きていないのですが、
ある意味、事件よりも
後味の悪い結末となっています。
横溝正史の初期の
不思議な味わいのある作品です。
【主要登場人物】
浅井信吉
…大学生。国元の兄から
仕送りを受けている。
さち子
…信吉の恋人。信吉と同棲中。
下宿を嫌い、一軒家を借りるよう
わがままを言う。
延原信太郎
…一軒家を借りるために
信吉が使った架空の名前。
須藤源八郎
…信吉の友人。刑事のふりをして
信吉･さち子に悪戯を仕掛ける。
玉江
…源八郎の恋人。
本作品の味わいどころ①
源八郎の仕掛けた悪戯
本作品で味わうべきは
｢悪戯合戦｣といったところでしょうか。
源八郎は信吉の事情を知っていて、
信吉とさち子を驚かせようと
刑事のまねをしたのです。
延原なる男の身元照会のために
信吉の実家に連絡が取られれば、
すべてが露見してしまい、
仕送りは止められるのです。
軽い悪戯のつもりなのでしょうが、
信吉には死活問題だったのです。
本作品の味わいどころ②
信吉の仕掛けた悪戯
その敵討ちをしようと、
次は信吉が源八郎に
悪戯を仕掛けるのです。
切られた髪の毛を送り、
あたかも情人への心中立てのように
見せかけたのです。
当然、源八郎と玉江の二人の間には
亀裂が入ります。
悪戯の効果としては
強烈すぎといわざるを得ません。
本作品の味わいどころ③
後味の悪さも味わいのうち
玉江は潔白を証明します。
その方法こそが本作品における
｢トリック｣となっています。
それについてはぜひ読んで
確かめていただきたいのですが、
逆にそれによって二人の破局が
決定的になっているのです。
終わってみれば全く関係のない
玉江だけが傷を負ったような形となり、
それが後味の悪さにつながっています。
まあ、それも
味わいの一つと考えましょう。
横溝の初期短篇は、
決して完璧ではないものの、
その内容には｢人物設定｣や｢筋書き｣、
｢トリック｣など、
後の作品につながるべき｢素材｣が
随所に見られます。
これを楽しむのが
横溝ファンというものでしょう。
いやいや、ファンでない方も
ぜひお楽しみください。
※柏書房
「横溝正史ミステリ短篇コレクション
①恐ろしき四月馬鹿」収録作品一覧
恐ろしき四月馬鹿
深紅の秘密
画室の犯罪
丘の三軒家
キャン･シャック酒場
広告人形
裏切る時計
災難
赤屋敷の記録
悲しき郵便屋
飾り窓の中の恋人
犯罪を猟る男
執念
断髪流行
山名耕作の不思議な生活
鈴木と河越の話
ネクタイ綺譚
夫婦書簡文
あ･てる･てえる･ふいるむ
角男
川越雄作の不思議な旅館
双生児
片腕
ある女装冒険者の話
秋の挿話
二人の未亡人
カリオストロ夫人
丹夫人の化粧台
（2018.8.14）
【横溝正史：ノンシリーズ作品】
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